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鳥取県智頭町《「結局吸いたいだけ」と思われないために》松浦良樹レポート

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9月5日、「電話ください。至急お願いします」というメッセージが飛んできたのは夜中のことだ。ありえない人からありえない時間に飛んできたメッセージだ。

最悪の事態をイメージした。

そしてそれは現実のこととなった。 鳥取県智頭町の麻農家・上野さんを含む複数人が摘発・逮捕された。芋ずる式だったのか。タイミングはともかく大麻の栽培免許を持った人間を捕まえるのは相当念入りな内偵があり確信を持ってガサ入れがおこなわれたのだろう。栽培免許許可者が大麻取締法違反の疑いで逮捕されるのは初めてのこと。それとも上野さんたちが迂闊だったのか。同時に数カ所のガサ入れは周到に準備されていたのだろう。

厚生労働省は全国の都道府県に対して、栽培の許可が適正かどうか確認するよう通知を出すという。 連絡を受けた翌日6日の報道では岡山県真庭市の非常勤の職員が乾燥大麻0.5gを所持したとして近畿厚生局麻薬取締部に逮捕されたという記事が掲載された。上野さんの麻畑へ年間コース生として通っていた「麻で町おこし」を考える地域おこし協力隊の一員だ。 14日には「大麻生産会社に自粛要請」「管理者不在」などとして報道された。 そして17日、乾燥大麻88グラムを隠し持っていたとして、厚生労働省の麻薬取締部に大麻取締法違反の疑いで逮捕されたという報道が流れた。 また同日、従業員2名の逮捕も報道された。捜査対象にもなっていない従業員もおり、明確な確証があって捜査・逮捕になったことがわかる。

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報道当日、昭恵夫人と面会していた伊勢麻振興協会も明確な違いを打ち出した。 18日、大麻取締法違反(所持)の疑いで高知県大豊町の元同町職員を4日、自宅で乾燥大麻約3・5グラムを所持した疑いで逮捕と厚生労働省四国厚生支局麻薬取締部が発表。年間コースに通う大阪府内の男数名の逮捕も報道された。 これまで上野さんの取り組みを好意的に取り上げたWeb媒体も続々と見れない状態になっている。 僕自身、大麻の有効活用を訴えている身でもあり、上野さんとは前期におけるNPO 日本麻協会の理事仲間でもあり、それ以前から大麻の現状や未来を話したりもした。また智頭町・上野さんの大麻畑や自宅にお邪魔したこともある。これからも大麻の現在も未来も語り合える同士・仲間だと勝手に思っている。 上野さんの麻栽培もかなりの試行錯誤の中、4年目に入り、何とか繊維、そして糸や布を織るところまでできるのではないかと期待させてくれていただけに残念でならない。ただ免許は上野さん個人ではなく法人が取得している。何とか栽培継続の方向で進んでいって欲しい。 同時に逮捕された地域おこし協力隊員ともこれから麻で地域を活性化させていこう!と語りあい、一緒に動き出そうとしていた矢先だっただけに残念でもあり、軽率だったと思う。 大麻の嗜好品としての利用は自己責任だと考える。どんな理由はあれ、「悪法」だろうが「時代遅れ」だろうが法は法だ。捕まったことに運が悪いという気は無い。捕まらないことに「僕だけは、私だけは大丈夫」という気もない。

上野さんが最速・最年少での栽培免許を取得した時、大麻関係者、大麻業界、大麻村は湧き立った。僕も湧き立った一人だ。そして一部では日本における大麻のトップランナー、カリスマと目され、大麻による地域おこしという今も続くちょっとしたムーブメントにもなった。 上野さんのもとには数多くの地方自治体関係者や大麻に関心を持つ企業関係者、そして個人が押し寄せた。免許取得を後押しした智頭町、そして免許を下ろした鳥取県も大きく注目されることとなった。メディアにも数多くとりあげられた。上野さんの元には政治家になるよう諭す人も多数現れた。 僕は「カリスマではなく一農家であり続けることが上野さんの役目」だと言い続けたが、周りの動き、そして何より上野さんの資質がそれを許さなかった。 安倍首相夫人が訪れた報道が流れた時には「安倍家専属の〜」「ロスチャイルドの〜」のような都市伝説のようなまことしやかな偽情報も飛び交ったりもしたが「見てもらえればわかるし、かえって良い宣伝になる」と上野さんとともに笑い飛ばしていたくらいだ。「ロスチャイルドの支援があれば苦労しない」「いっそ、支援して欲しいわ」と笑いあい、「その時は俺にも億単位で回せよ」と勧めたくらいだ。ロスチャイルドの支援もない。安倍さんの支援も、何らかの陰謀もない。そんなものがあったならば今回の逮捕劇は起こらないハズのものだ。 「栽培免許と所持逮捕は別の話」 上野さんの麻畑で栽培していたものはTHCの限りなく微量なトチギシロだ。ガサ入れを食らい出てきたものはまったく別なものだ。山中での栽培なのか何処なのか、また誰がどのように栽培し誰の手に渡りこのようなことになったのか、とにかく吸いたい目的で麻畑で大麻を栽培していたわけではないし、栽培免許を持って麻を栽培していたことと吸う目的で所持していたことは別問題だ。

そこは明確に分けておいて欲しい。

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麻の理解と普及を目指し上野さんとともに講演会などをおこなったことのある辻信一さんは一報を聞き、「人に影響を与える立場の人。麻の動きに関わる人は構え直さないといけませんね」と落胆した。 「北海道にしろ鳥取県にしろ伸びるエネルギーを感じていただけに残念。上野さんには隠れないで正々堂々としてほしい。頑張りどころだと感じている。今がこれからの日本の麻の正念場だ」というのは麻を主題にした映画『麻てらす』を撮影する吉岡敏朗さん。 大麻問題に詳しい丸井英弘弁護士は「日本國憲法における法治主義の目的は人権の保障にあります。大麻取締法は、大麻草の所持栽培を刑事罰で取り締まることを認めています。が、具体的な被害者が存在しない軽犯罪法にもならない事案に対して逮捕勾留するのは、国民の人権を侵害するものであり、法治主義の目的に反する行為であると思います」というコメントを出している。 ここで「世界の動きは〜」「アメリカでは〜」「カナダでは〜」と声高に言う気は無い。よその国の話だ。「若者の未来が〜」という気もない。「戦前は〜」という気もない。確かなデータがない。「GHQが〜」という気もない。曖昧な情報だ。法的に規制されている日本の今、そして現状の中でおこった逮捕劇だ。 どのような形で逮捕に至ったのかはこれから様々な噂が飛び交い、また報道されることになり、否定派と擁護派にわかれ、公に、あるいはヒソヒソと議論され話題になるだろう。しかし残念ながら法は法。大麻取締法がありその運用方法が確立されているのは紛れも無いことだ。法の運用を考えれば年間数多く捕まる中のひとつの案件に過ぎない。 なにより逮捕された「事実」からくる逮捕された「影響」の方が大きい。
9月末まで鳥取支部長として上野さんが所属していた日本麻振興会の大森さんは「逮捕された中の一人は出て行った人間、上野は除名した人間。麻と向き合うには愚直なまでに真っ直ぐ、麻のように真っ直ぐに」と今回の件を語る。 心配なのは今回の件で「伝統」としての大麻、「農業」としての大麻、「産業」としての大麻、「医療」としての大麻、「環境」としての大麻、「地域おこし」「地域活性化」としての大麻、「持続可能性」としての大麻の有効活用が否定されてしまうことだ。
特に上野さんは「伝統」「農業」「地域おこし」「地域活性化」などの面で期待が大きかった。その中での「嗜好」としての逮捕だ。期待が大きい分その反動として多くの人により大きな失望を与えることになるだろう。それだけ上野さんの影響力は大きい。 実際、来年度に向けて栽培免許の取得に動いていたある地域は申請を控える検討をしていると聞く。産業用プラスティックや建材などに関しても影響の出そうな状態だ。大麻産業への新規参入の動きにもすでに影を落としている。大麻の有効活用を強くアピールしていた分、畑を視察し通常商品を購入しただけの昭恵夫人も何らかの対応に追われることは確実だ。 対応を誤れば日本の大麻の動きは停滞する。大麻以外の動きにも波及する可能性すらある。 驚き、心配し、失望し、怒りを覚える人も出てくることは間違いない。「やっぱりね」という人たちもいるだろう。「これまでのことはなんだったのか」と肩を落とす人もいるだろう。間違いなく「結局吸いたいだけ」と言われるだろう。これまでのことが嘘のように手のひらを返し離れていく人もたくさんいるに違いない。これまであまり語られることのなかった悪評も吹き出すに違いない。様々な事件と絡めて「ダメ、ゼッタイ」の声も大きくなっていくだろう。 さらに逆に近づいてくる人もいるに違いない。前科がつくことで仲間意識が生まれることやかえってカリスマ性が高まることがあることを僕は否定しない。また「嗜好」だけでなく「医療」としての大麻の分野ではかえって上野さんの需要が高まるかもしれない。それを望む人もいるだろう。
実際、上野さんは 嗜好目的よりも医療に近い使い方をしていたのではないかと感じている。 多くの人が上野さんに抱いた期待、押し付けた期待、させようとしたこと、させたかったことと上野さんがなぜ大麻を求めていたかの間には大きな溝があり、ギャップが存在するかもしれないのだ。 その重圧は計り知れないものだったハズだ。「僕は次の段階、次のステージへ向かわなければならない」と上野さんは精力的に動き回っていた。対外的な理解を得るため、そして味方につけるために地元を離れ発酵肥料の研究や講演、視察と飛び回り、なかなか地域との交流が疎かになり、また畑の出ることが減っていたことも否めない。その結果として、対外的な評価は上がったが地元の理解という部分ではマイナスな事も多かった。「上野は何をやっているんだ」という声も聞いた。「もっと土と向き合え」「もっと麻と向き合え」という上野さんの様子を心配する意見もあり上野さんにも伝えていた。 上野さんは焦っていたのだと思う。なかなかでない結果、期待へのプレッシャー、漏れ聞こえてくる非難中傷、他の麻農家との比較、その他さまざまな圧力もあった中で、弱みを人には見せないように発言し、行動していた。弱音を吐ける相手、あたり散らせる相手はいなくなっていた。現実と理想の間でもがいていた。 生活をどうするか、麻にこだわり続けるのか、どのように社員や家族を養うのか、繊維なのか種なのか、目指す方向はなんなのか、、、思考は行ったり来たりしながらグルグルと回り答えのでない時間を過ごしてきたはずだ。そして様々な事をおこない、舞い上がり、落ち込み、着地点を失っていったように見える。 とはいえ今年の栽培時期に入って、支えていこうとする仲間は増え、ごく最近はしっかりと話し合う体制を整え、まさにこれから「建設的で、答えの出せる、理解を得られる、持続可能な」動きが始まるところだった。その矢先の逮捕だった。逮捕されたことへの言い訳をしようというわけではない。ただそういったやっと先が見えてきた中での逮捕だったこと、その無念を感じてもらいたい。 初犯であれば法廷闘争をすることを考えなければ弁護士が誰であれ通常2週間もあれば釈放だ。上野さんにはそっとその土地からいなくなる、麻の世界から足を洗うというありがちな楽な選択肢ではなく針のむしろではあるが、まずは地域の関係者への詫びをしっかりとしてもらいたい。マイナススタートではあるが許されるならば上野さんが麻の動きをスタートさせたその場所で信頼を回復してもらいたい。それは一麻農家で留まらず自身の影響力を背景に啓蒙活動に重点を移していった上野さんの責任だろう。 また智頭町寺谷誠一郎町長は「責任を痛感している。二度と栽培許可の後押しはしない」とのコメントをだし、「上野さんには出ていってもらいたい」と発言しているが、智頭町は「疎開の町」を標榜している。あえて「麻」を受け入れたように、「あえて」上野さんを受け入れて欲しいと願う。これから先の上野さんを厳しく長い目で見ていて欲しいと願う。鳥取県、厚労省などとの絡みもあるだろうが、上野さんのためにも、「麻」のためにも、智頭町が「大麻で失敗した町」というレッテルを貼られないためにもそれを願う。なかったことにはできない。なかったことにはして欲しくない、、、と願う。起こったことは起こったことだ。隠すのではなく逆に利用するくらいの力が智頭町にはある、と信じる。鳥取県もこれを逆にチャンスに変えて欲しい。虫の良すぎる思いではあるが。 上野さんには法廷闘争を勧める人もいるだろう。より一層のカリスマ化を期待する人もいるだろう。だが、僕はそこではなく地域や行政、そして上野さんを慕うごく身近な仲間、関係者への詫びを優先してもらいたい。それが影響力を持った上野さんの責任だ。闘う場所、向き合う場所は法廷などではなく、地域であり畑であり土であり、麻であってほしい。逮捕された以上、麻農家であり続けることはできないが、麻農家経験者として何かできることもあるはずだ。 上野さんも言っていたはずだ。「麻だけにこだわる気は無い。仲間や家族の生活のためなら麻なんか捨てても良い」。その気持ちを思い出して欲しい。そして一番は家族を大事にしてもらいたいと願う。家族を大事にするためには上記、僕がこれまで書いてきたことなんかどうでも良いとも思う。 智頭町の麻畑も種が綺麗に色づく季節だ。
陳腐な言葉だが、捲土重来を望む。

松浦良樹

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